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(写真 カルティエのフォトグラファーが撮ってくれた写真。母の日本画をバックに。この写真が後のメディア対応時にすごーく役にたちましたー)

来週なんだけど、パーティでお茶たててくれないかな?

2014年2月。「japan culture day」という日本大好きカナダ人が主催した公園の青空イベントでボランティアとしてお茶を点てていた私に声をかけてきたのは目の大きな、清潔感のある若者。髭がカッコイイ。なんだかよくわからないけど、来週?まぁあいてるけど…「じゃぁ明日ドバイモールのカルティエに10時ね、打ち合わせしよう」と名刺を渡してきた。名前はジャミール。どうやらレバノンの人らしかった。カルティエねぇ、パーティねぇ…ホントかなこれ…ものすごく半信半疑で翌日約束の時間にドバイモールのカルティエの中に飛び込んだ。名前を名乗るとうやうやしくエレベーターで二階に案内された。
すぐさま爽やかな笑顔で昨日会ったジャミールが出迎えてくれた。彼はカルティエのVIPパーティのオーガナイザーだった。『今回のパーティのテーマはジャパンなんだ。今回のお客様は20名。全てUAEローカルの女性。来週の木曜。VIPルームを2つに分けて、手前をウエルカムドリンクを飲むラウンジ、奥をダイニングにして日本料理のシェフを呼んで料理をしてもらう(食事の前に踊りの先生にもきていただいて、日本の踊りを踊ってもらう)。料理をお客様が楽しんでいる間、ウエルカムドリンクを飲んだラウンジをお客様にはナイショでお茶室に転換し、お腹がいっぱいになったところで、パテーションを開き、和室で私がお茶を点てる、というサプライズをしたい」ということだった。「で、ティーセレモニーってのは何分かかるの?」というので、20名なら最短でも2時間はほしいな、と言ったら「そんなのみんな飽きちゃうよ!30分で終わらせられないかな?」と…。ということはもうお点前云々なんてのはどうでもよくて、雰囲気が味わえればいいのね、と理解した。しかしそれをするにはお茶碗が人数分、日本のお菓子も要る。ドバイにはどれも売ってないよね、パーティまであと10日くらいだよね…おまけに

寄木細工の秘密箱っていうのもパーティのお土産に欲しいんだよね、そこにカルティエのキーホルダーを入れてお客様にプレゼントするんだよ。20個、手配できる?

配膳にアジアンモデルを二人使うのだけど、その子達の日本髪と着物を着せてくれない?

さすがだ…ハイブランドならどうにかしてしまえる力があるのだろうか。着物は先述の「japan culture day」でヴィンテージの着物を彼等が購入していた。しかし長襦袢も、草履も、足袋もない(笑)。計画があるようでスケジュール的にはものすごく無計画なこの人、大丈夫かしら。「手配できなかったらどうするの?」と聞いたら「yasuyo、君がやってくれると信じているけど、無理ならネットで買ってFedexで送ってもらうよ…着物は考え直すよ」「とにかく見積り出してみてくれる?急ぎで」というのでちょうど日本からドバイに来ようとしていた夫に頼んでネットで買ったものを持ってきてもらおうと思いつき、あれこれ算出。私しかこのスケジュールでこなせる人はおそらくドバイには他にいない。お点前やら着付け、日本髪を結う技術料についてはハイブランド価格にしてみた(笑)。しかしGoが出てしまった!

もうやるしかない。しかしやるからにはお茶碗などは実物を見て決めたい。ダメもとで「私が日本に買い付けに行ってはダメかしら?」と言ったらこれもまさかのGoサイン。このときはたまたま義母がドバイに遊びにきてくれていたので子供たちを任せることにして、あわててチケットを取って日本に飛んだ。2泊4日のとんぼ返り。雪で羽田から飛行機が飛ばず、一日遅れだったがなんとかすべての荷物を揃えてドバイに戻ることができた。

さて当日。夜8時から始まるパーティだけど、私達のスタートは2時だった。まずはアジアンモデル2名のメイクから。ヤスミンというメークアップアーティストが彼女たちをメイクした。着物に合うメークを聞かれたのでアレコレアドバイスしているとき、ジャミールが登場。アジアンモデルの二人のうちの茶髪の女性にこう言った。

『君が悪いんじゃないんだ、だけど僕はストレートの黒髪の子を頼んだんだ。パーティまであと6時間ある。今からサロンにいって髪を染めてきてくれ』

いやいや、そんなのかわいそうでしょ、毛先のくるくるは日本髪で見えなくなるし、少々茶色くってもどうにかするから、まぁまぁ、となんとかジャミールをなだめる私。「アジアンモデル」といってもその茶髪の子はタイの女の子。彼のイメージとは違ったのは私もわかるけどさ、でもさ、確認もせずにそのまま依頼しちゃったのはアナタでしょう、と。(写真は「吊った」盆栽と、規格外の障子戸)

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VIPルームには浮世絵やら、壺やら、日本のアニメの本やら、「どこで買ったの?」というお宝がたくさん飾られました。ジャミールは「僕こういうの好きなんだよ〜えへへへ」。そしてダイニングにはガジュマルの盆栽を「吊って」ディスプレイ。「先入観がないって、スゴイな」と思うしかない瞬間を味わいます(笑)。ヨーロッパのお花屋さんが突貫工事で用意した巨大な障子のパテーションも登場し、VIPのお客様のお荷物を預かるポーターはモデルエージェンシーからイケメンを用意。ジャミール抜かりない。英語もフランス語もキレイだし、私を「スペシャリスト」と敬ってくれる腰の低さだし、この人スゴイのかな、などと思っているところへ、私達にマカナイの食事まで。そうこうしているうちにお客様がいらっしゃる時間に。ポーターがお客様のアバヤ(イスラム教の女性が身にまとうロングコートのような上着)を預かり、ハンガーにもかけず私達がいる部屋のソファーにポーンと置く。そしてそのアバヤに残る香水の残り香に「キッツー」みたいな仕草を毎回して見せる。イケメンとはいえど中身は小学生だ。食事をする前に踊りのパフォーマンスをするのはお知り合いの真理子センセイだった。真理子センセイはドバイのダンスカンパニーでたくさんの生徒を持っている。旦那様はフランス人だ。彼女はダイニングルームで華麗に舞い、帰っていった。(写真はアジアンモデルの二人、真理子センセイと一緒に撮ったものと、イケメンポーター達、そしてジャミール)IMG_2340IMG_2363IMG_2390

さ、ここからが勝負

お客様が日本食を楽しんでいる間、隣の部屋で音を立てないように花屋の男性たちと障子やら行灯やら掛け軸やらを設置、私は小さなテーブルの上でお茶のお点前をするということで、今回は特別に座布団まで用意してもらった(笑)。ジャミールの要望どおり「あんみつ姫風」に仕上げた日本髪で二人のモデルはよく働いていた。ちょっとした休憩時間にもお茶のサーブの仕方を私に聞いてくるなど、実に熱心で良い子達だった。(写真は厨房からケーキを運ぶアジアンモデル、ジャミールが側で見守る。)

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宴もたけなわ。しかし会場にはジャミールがいない。何故??私は気がついた。ここはイスラム教の国。部屋に女性がアバヤを脱いで、ドレス姿でいる、ということは男子禁制なのだ、と。たしかにポーターのイケメンもパーティ会場の入り口までで中には入っていない。司会は女性だ。「そう、僕は自分がオーガナイズしているのに、一度も実際のパーティをみたことが無いんだよ。いつも部屋の外なんだ。先月はアリスをテーマにやったんだ、マジシャンを呼んでね。」とジャミールはあっけらかん。これもまた彼を尊敬する材料になってしまいました。

とうとう出番。お腹いっぱいの女性達。アバヤ姿も素敵ですがそれを脱いだドレス姿も素敵なのです。本当に中東の女性は美女が多い。しかもスタイルがものすごくイイ!
そして彼女たちは着物姿の私を見てすかさず写真を撮りまくるのです。客寄せパンダとしてこの後ドバイで数々のお仕事と出会っていくことになるだなんて全く想像だにしなかったのですが、今思えばこれが始まりでした。お菓子を一口だけ食べて、ごちそうさまとか、露骨に苦い顔をしてお茶を残されるとか、まぁいろいろありましたがこれもすべて楽しい経験でした。パーティが終わったのは11時。撤収して家に帰ったのは夜遅くでした。ジャミールは最後まで笑顔を絶やさず前向きな声掛けをし、周りを明るくしてくれる人でした。
片付けをしながら、「差し支えなければ教えてほしいんだけど、今回の予算ってどのくらいなの?」とジャミールに訊ねたら、「20万ディルハム(約600万円)だよ。」「一月に一回のパーティでそんなにかけちゃうんだぁ」と言ったら「いやいや、彼女たちが何か買ってくれたらミリオン(約3000万円)だからね。ぜんぜんペイできるんだよ」ということでした。おそるべしドバイのVIP奥様方!